愛しのディアンヌ
18 幸福なワルツ
 私は、風邪を引いてしまったのだ。
 
「ごめんなさい。風邪をひいちゃったのね。それとも脱水症のせいなのかな」

 丸一日、寝込んだが、じきに回復したのである。看病してくれたブルーーのが私の額に氷を載せて不思議そうに尋ねた。
 
「お姉ちゃん、結局、そのまま泣き寝入りしちゃうのかよぉ?」

 コクンと頷くと、ブルーノは眉を潜めた。

「本当にそれでいいのかい? ルチアを警察に訴えちまえよ。危うく死ぬところだったんだぞ」

「……訴えるつもりはないわよ。彼女はルイージの大切な幼馴染なのよ」

 私は、決して綺麗事を言っている訳ではない。暴走してしまうルチアの気持ちは分かる気がする。

「あの人は、好きでもない老人と結婚させられて人生に絶望していたのよ」

 魂を切り刻まれるように苦しかったに違いない。

 私だって、急にルイージと会えなくなり、老人と結婚させられたら絶望するわ。

 そして、ルイージと一緒にいる人に嫉妬してしまうかもしれない。

「彼女は、ずっと不幸だったのよ。ブルーノ、もう許してあげましょうよ」

「おいらには、ちーっともわかんねぇーや。まっ、いいさ。おいらも忘れるとする。熱もかなり下がっているんだな。それじゃ、今夜は帰るぜ。またなー」

 ルイージの演奏会は急遽中止となっている。

 あの日、私を助けようと駆け付けたせいで多大な違約金を支払うハメになっている。しかし、これに関してはマリアさんが肩代わりしてくれている。

 親切なマリアさんが色々と便宜を図ってくれている。

『父上が危篤状態だから故郷に帰ったと言っておいてあげるわね。心配いらないわ。早く遺産問題を解決してね。みんなルイージの演奏を心待ちにしているのよ』

 父親が危篤というのは嘘ではない。

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