愛しのディアンヌ
 入り口に木製の楽器ケースが置かれている。楽器の柄を強く握り締めてソッと近寄り、相手に張り振り下ろそうとすると青年が起き上がり叫んだ。

「どういうつもりなんだ!」

 全裸の青年が目の前に立ちはだかっている。ズンッと、股間が私の鼻先へと迫ろうとしている。

「やめてーーーー。変態ーーーーーーーー。服を着てーーーーー!」

「うるさいぞ、おまえは、どういうつもりなんだ。なぜ、ここにいる!」

 私の部屋だと言いたいけれども、天井の梁に吊るしていたはずの大量のハーブが見当たらない。夏場だというのに背筋がゾクッとなる。青年が低い声で問い詰めてきた。

「おい、どういうことなんだよ?」

 ひゃーーーーー。ごめんなさーーーい。驚きの余り心臓が飛び出しそうになる。

 深く頭を下げていた。当たり前だが、恐縮の余り、顔が強張り声がプルプルと上擦ってしまう。

「す、すみませんでした。僕は、五〇五号室のジョルジュと申します。鍵を失くしてしまいまして管理人に頼んで部屋に入りました。ここ、あなたの部屋なんですね」

 すると、彼は渋面のままボソッと告げた。

「ここは405だよ。俺はルイージだ。引っ越したばかりなんだよ」

 こちらに悪意がないと気付いたのだろう。ベッドのシーツを腰に巻きつけると皮肉混じりの溜め息を漏らしている。

「早く出て行ってくれないかな。疲れているんだよ」

「えっ、あの、ええっと、楽器はどうしましょうかね……」

 すると、たちままち、ピシッと強い視線によって射抜かれてしまう。

「どうでもいいよ。出て行ってくれよ!」

「すみませんでしたー。お騒がせしました。おやすみなさーい」

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