愛しのディアンヌ
3 街歩き
「中古のヴァイオリンがあるかだって? おう、任せろよ。いいのがあるぜ」 

 古物商の番頭をしているレビィーに相談をすると明るく請け負った。私よりも一歳年下でリスみたいに愛嬌のある顔のレビィーがは公園沿いの小さなカフェのテラスで待っていた。

 待ちかねたようにレビィーが忙しない口調で語り出す。

「あんたが男前のルイージさんだね。はじめまして。おいら、これから行くところがあるんだよ。楽器を買うかどうか、チャチッと決めてくれや。おいらの専門は貴金属で楽器には詳しくねぇんだが、死んだ父ちゃんが言うには、この楽器はなかなかの上物らしいぜ」

 楽器のケースの蓋を開けると。ルイージがど探るように言った。

「……君、まさか、これは盗品じゃないよね?」

「おいおい、冗談じゃないぜ。言いがかりはよしてくれよ。こいつは名も無き楽師の遺品なんだよ」

 ルイージが警戒するのも無理はない。都会には盗品を売りさばく悪徳業者がいるから要注意なのである。レビィーが陽気な声で説明している。

「あれはニ年前のことさ。大陸の南部の港町から来た老いぼれ楽師がフラッとホメリラ村に訪れたんだよ。そいつは村祭りで演奏したんだが、その夜、胸を押さえてポックリと死んじまった。この遺品、どうしたものかと思って宿屋の女将は放置していたが、おいらの父ちゃんが安値で買い取ったのさ。試しに弾いてみろよ」

 訝しげに眉根を寄せたまま触れようとしない。黙ったまま、少し強張ったように指先でなぞった後は、楽器を見下ろしたまま表情を止めているのだ。コーヒーを飲み干したレビィーが軽妙に持ちかけている。

「ルイージさんは金が無いんだったよなぁ。おまえさんの衣服とか帽子との交換でもいいぜ」

 もちろん、対価として何か渡す事はルイージには伝えてある。

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