愛しのディアンヌ
「あんたの私物ってのを見せてくれよ。他にも売りたいものがあるなら色々と査定してやるぜ。えっ、どうしたんだよ」

 ルイージの固い表情が気にりレビィーが狼狽している。

「おいおい、まさか、おいらのヴァイオリンなんていらねぇってのかよーーー!」

「……いや、そんな事はひとことも言っていないよ」

 モゾッとした煮え切らない声。なぜか、反応が妙な感じになっていてザワッとした空気になっている。どうしたのだろう。仕方なしといった感じでルイージが鷹揚に顔を上げた。

「それじゃ、俺の革の手袋と交換してもらえるかな。我が家の紋章が入っている。こんなもので構わないのかい?」

「おう、いいぜ。いい手触りだぜ。ヴァレンティノの革製品は質がいい。香水の匂いが染み込んだ手袋だな」

 レビィーの見立てによると、この手袋はデザインが抜群にカッコ良くて洗練されているとのことだった。

「男前のルイージの愛用品となればスケベな女どもが喜ぶぜ。普通の革手袋よりもうんと価値が出るのさ。マニアは有名人の私物に興奮するからな。ここのお茶は、おいらの奢りにしとくぜ」

 レビィーが交渉成立とばかりに早口で言う。

「ほらよ、これが領収書だ。おい、ジョルジュ、『そんなに演奏したけりゃ、おいらの街でやればいいさ。とっておきの場所を教えてやるよ。ここに行きな。じゃなー」

 レビィーは一気にコーヒーを飲み干して立ち去っていったのたが、私はハラハラしながら尋ねていく。

「いいんですか? 音は出ますか? 何も無理して買わなくても良かったんですよ」

 彼は楽器の腹をスルリと撫でてニッと笑った。

「ふふ、大喜びさ。これを聴いてみてくれよ」

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