愛しのディアンヌ
「そこの楽師! 貴様は誰の許可を得て商売をしている! 営業許可証を見せろ!」

 許可証がないと分かると即座にルイージを拘束していった。強引に捻じ込むようにグイッと馬車に押し込めている。

 追いかけようとするとルネが腕を掴んでいた。私はカッとなって無我夢中になり告げていた。

「僕も行きますよ! 僕も同罪なんですよ」

「小僧、おまえは逮捕しない」

 どういうことだろう。何かを含みを持たせたような雰囲気を醸し出したままニヤリと笑っている。

「いい事を教えてやろう。長老のソロモンは高利貸しをしているんだぜ。おまえさんもソロモンに頼ればいいのさ」

 煙草のヤニで黄色く濁った前歯か目立つ。

「密告したのはソロモンだよ。おまえが泣いてすがり付けば何とかしてくれるぞ」

 意味が分からなかった。ズトンッ。一気に暗い気持へと落とされた私は放心したように立っていた。いつのまにか、隻眼の水夫が私の肩を叩いていた。

「坊や、おまわりに脅されたのか? 袖の下を渡せって言われたのか? 賄賂を渡して釈放してもらうしかない。しかし、おまえさんに金があるとは思えねぇな」

 他の水夫も困ったように言う。

「きっと、今夜の楽師の兄ちゃんの稼ぎも奪われちまってるぞ。せっかくいい気持ちで踊っていたのにさ」

「何だか申し訳ねぇ事をしたな」

 皆、シュンと表情を曇らせながらしょんぼりとしている。私は、喉を詰まらせていたせいか呼吸が苦しくなってしまい少し頭がボーッとしてきたが、それを振り払うかのように鼻を啜る。

 泣いている場合じゃない。彼を救うしかない。自分に喝を入れる為に拳を握り締めた。落ち込んでなんていられない。

 何としてもルイージを助けなくちゃいけない。
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