愛しのディアンヌ
6 看護
 私は、ルイージの事になると冷静にはなれない。大急ぎで下宿に駆け戻っていく。

 ベッド脇の床板の一部を外すと、もしもの時に備えて隠しておいたヘソクリを握り締めていた。

 大急ぎで警察署に舞い戻ると看守と取り引きをして面会をさせてもらう事になった。

 昼間だというのに地下の部屋は薄暗くてヒンヤリしている。ルイージのいる独房にはマットレスが敷かれている。藁を敷いただけの他の人の房よりは快適な環境だと分かりホッとしたのだが……。

 部屋の隅に座っているるルイージの顔色は悪かった。

「ルイージさん! 大丈夫ですか!」

 私は、錆びた鉄柵を握り締めて柵越に話しかけていく。

 彼は、胡乱な顔つきでこっちを見ている。その冷ややかな空気にヒクッとなり肝が冷えた。

 私は遠慮がちに鉄格子に近寄りながらも、おずおずと謝罪する。

 喜ぶどころか、顔の筋肉が神経質に引き攣っているのである。もしかしたら怒っているのかしら。ごめんなさいと頭を下げながら言う。

「何もかも、ソロモン長老のせいだったんです。もう心配ありませんよ」

「何だって! 長老が! どういうことなんだ」

 驚くのも無理はない。私は相手に分かるように説明していく。

「聞いて下さいよ。酷いんですよ。ややこしい依頼を僕に引き受けさせようとして、あなたを人質に取ったみたいなんですよ。そんなことしなくても、普通に依頼してくれたら良かったのに……」 

 私は、ポケットから許可証を取り出していく。

「はい、どうぞ。僕、無事に任務を終えましたよ。これで、ルイージさんは無罪放免になりますよ」

「……そうだったのか。黒幕は長老が黒幕だったのか……。まったく何て奴なんだ」

「レビィーは言っていました。長老は余所者を信用しないようなんですよ。それで、僕を追い詰めてやらせる方法をとったようなんです」

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