愛しのディアンヌ
「そんなふうに狡猾だからこそ一代で財産築けたんだろうな」

 彼は、視線を私に注いでいる。

 真剣な顔がフッと綻び、哀切を帯びたような独特の面差しになっている。そして、彼は喉を震わせるようにして苦笑している。

「色々と想像してしまったよ。君は、もうここには来ないと思っていたよ」

「ごめんなさい。変なことに巻き込んでしまいました。僕も、こんなことになってビックリしています。食事の差し入れは届きましたか?」

「ちゃんと届いたよ。おかげで俺は何ともないよ」

「無事で良かったです……。心配したんですよ」

 彼も、同じような泣き笑いの表情を浮かべている。何かを強く噛み締めるように囁いている。

「許可証の値段なら知っているよ。数日で稼げる金額ではないよね……。君は、一体、何をやらされたんだ?」

「薬剤師として働きました。今、喉が渇いていませんか? 僕、飲み物を持ってきます。りんご酒を買ってきます」

 鉄格子の前から去ろうとしていたのだが……。

「ちょっと待ってくれ」

 なぜか、引き止められていたのである。真剣な顔だった。

「もしかしたら、君ならば分かるかもしれないね。実は、死体安置所に子供が押し込められているんだ。ずっと気になっていたんだよ」

「えっ、子供ですか?」

「男の子が客を殴った罪で捕らえられているみたいなんだ。懲罰として死体安置所の中に閉じ込められている。可哀想だった。泣き喚いていたんだよ」

 強引に連れて行かれ、そこで、折檻されたようなのだ。

『このクソガキ! 噛み付きやがって。うるせぇんだよ!』

 閉じ込められて、頭や顔を叩かれていたというのだから胸が痛くなる。

『悪くないぞ。客が金を払わなかったんだ。くそーーーーー。てめぇら、何しやがる!』

 少年は、口惜しそうに泣いていたという。それを聞いた私は身震いしていた。

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