愛しのディアンヌ
9 新展開
 気付くと翌朝になっていた。えっ。眠りの糸が解けた時、私は、ベッドの真ん中にいた。

 カーテンがないので朝日が眩しくて、光の束の中に浸されているみたいだ。狼狽しながら周囲を見回していく。

「ルイージ? どこなの?」

 テーブルの上に置き手紙が残されていることに気付いた。

『おはよう、ジョルジュ君。俺は出かけよる。仕事を探すことにした。パンとソーダー水を置いておくから食べておいてね。俺の部屋の鍵を預けておくよ。夕刻には戻るつもりだ。出かける際には、ちゃんと鍵をかけるんだよ』

 呑気に欠伸している場合ではない。

 遅刻しちゃうので慌てて飛び出した。ハァハァと息を切らしながら講堂に滑り込み、いつものように壁際の隅っ席に座るが、なぜか、今日は講義の声が耳に入ってこない。

 フアフアとした気分を持て余した。昨夜の事を想うと、みぞおちの辺りが慌ただしくなる。

 喉が張り裂けるほどに何かを叫びたいような衝動を感じていた。

 逞しい裸体が目に焼きついているのだが、午前中の授業を終えた時に気付いたのだった。食堂に行くお金が無い。

 ヘソクリも、こないだルイージを救う為に使い果してスッカラカンになっている。

 色々と考えた結果、思い切ってマリアさんに、お金を貸してもらおうとしたのだ。

          ☆

 放課後、私は、藁にもすがるような気持ちでマリアの家へと向かっていた。

 男の子の格好のまま自宅の呼び鈴を鳴らすと、マリアさんが飛び出してきた。。

「ディアンヌ! ちょうど良かったわ! 嬉しいわ。今から、甥をそちらの下宿に向かわせようと思っていたところなのよ。緊急事態なのよ」

「何かありましたか?」

 美しい蜂蜜色のお茶を淹れながら微笑みを口許に湛えている。

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