愛しのディアンヌ
 そのまま一階の隅にある書斎の隣煮にある控え室に移動する。ここには亡くなった旦那さんの趣味のアイテムの標本や地球儀が飾られている。オルファさんが東洋風の竹籠の中に入った紙の包みを開いた。奇妙な物体だ。虫のような見た目をしている。

「実物は初めて目にしました。虫に寄生する草ですよ。極東の山奥にしかないものですよ」

 慎重にピンセットで裏側に返していく。

「貴重な喘息の薬ですよ。燻して煙を喉に入れると気道が楽になるといわれています」

 覗き込むオルファがエキゾチックな黒い瞳を大きく見張って呟いた。。

「主人は私の喘息発作を気にかけてくれていたのね……。これ、どうやって服用するのかしら」

「そうですね……。用量に関しては専門医に聞いて下さいね。東方区域の医学に詳しい薬局はここにあります。ここに行って下さい」

 私の説明に納得したオルファは優美な仕草で腰を上げた。

「それじゃ会場に戻るわね。あなた方は、ゆっくりとお茶を飲んでちょうだいね。お菓子やサンドイッチをここに持って来させるわ。気に入ったお菓子があれば、バスケットに詰めてお土産にしてもいいのよ。それじゃ、またね」

 大広間からは優雅な舞踏曲が聞こえてくる。踊ったり飲んだり談笑したりして社交を満喫している空気が伝わってくる。

 アリアさんが興味深そうに質問してきた。

「ところで、あなた、ルイージに女性だと打ち明けたの?」

「まだなんですよ。何となく言いそびれてしまって……」

「今日のあなたは最高に可愛らしいわ。彼も、その姿を見たならクラクラしちゃうわよ。打ち明けなさいよ。幻燈の時間、楽団員は休憩するのよ。その時に打ち明けたらどうかしら」

 私達も大広間に向かう。だが、私は気後れしていた。風格に満ちた紳士淑女達。煌びやかなシャンデリア。田舎者の私は圧倒されてしまう。

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