愛しのディアンヌ
12 同棲
 そして、襲撃事件から五日後。

 丘の上にある高級アパルトマンに引っ越してきた。鐘楼が遠くに見える。カーテンの色も素敵。絨毯の模様もモダンでフアフアしている。

「素敵ですね。ここは抜群に日当たりも風通しもいいですね」

 寝室と居間と厨房と浴室といった間取りなのだ。他の階には、大使館の書記や高級官僚夫妻などが暮しているという。 ルイージは、空になった私の古びたトランクを納戸に運び込みながら呟いた。

「ここには台所も浴室あるんだよ。前よりは、かなり暮らしやすいだろう?」

 今の彼は、懐に余裕があった。私の為に女性用の衣服を買ってくれている。

「君が、頑張って手に入れてくれた営業許可証と同じ値段だから遠慮しないでくれ」

 ここに来るまでにルイージと、以下の取り決めをしているの。外では男の子として振る舞うけれども、室内では女性として暮らすのだ。

 三日後になると、私は、ここでのすっかり暮らしに慣れた。ここは学園からもマリアさんの家からも近い。

「はい、どうぞ。頼まれていた本を貸本屋で借りて来ましたよ。全部で三冊でしたよね。ルイージさんって読書が好きなのですね」

「子供頃は友達がいなかったからね。ねぇ、ディアンヌ、疲れているところ申し訳ないが、お茶が飲みたいな」

「はい、すぐに用意しますね」

「慌てなくていい。ゆっくりでいいよ」

 彼は、優しい。ゆとりのある態度で対応してくれる。この人はコーヒーよりも紅茶が好きなのだ。

 濃い紅茶にジャムをたっぷりと入れる。それがルイージの定番。私達の同居は穏やかな空気に包まれていた。彼は、幼少期の思い出について少し哀しげな声で語ってくれている。

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