愛しのディアンヌ
『こうしている方が便利なのよ』

『おいらの死んだ姉ちゃんと同じだ。男と女じゃ賃金も違うもんな。それに悪い虫もつかないぜ』

 母さんと二人暮らしだと聞いている。ブルーノが、美味しいオレンジを私の為に丁寧に選びながら語った。

「おいら、お姉ちゃんのおかげで遺体にならずに済んだんだぜ。おいら、悪い奴が来ないかどうか見張っやるよ。お姉ちゃん、知らない奴に狙われて危ない目に遭ったことがあるんだよな。ルイージさんが心配していたんだぜ」

「 私が、変な奴に襲われた事件をブルーノに話しているのね

「二度とそんな事が起こらない様に、おいら達が警護しているのさ」

「……そうだったの。何も知らなかったわ」

 みんなの優しさに胸がジワンと熱くなってくる。

「おいら達、みーんな、ルイージさんの事が好きなんだぜ」

 貧しい子供達から彼は尊敬されている。きっと、社交界の人達も分かってくれる。

 私は、路上で商いに励むブルーノの後ろ姿を見つめながら安堵していた。爽快な気持ちで帰宅していた。いい事が続いている気がするのだ。マリアによると、社交界でのルイージの評判はいいらしい。

『貴族階級の方達も彼に興味を示しているわ。アルサールの市長庁のセレモニーで演奏して欲しいって私を通じて依頼があったのよ』

 支援者や理解者がもっと増えて欲しい。彼は素晴らしい人物なの……。才能に溢れているの。彼の奏でる音楽は心に染みる。

『ルイージは不埒な色魔』

 そういう不名誉な噂は消えようとしていた。私と彼との絆は深まっている。だが、それを快く思っていない人物が潜んでいたようである。

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