あなたの傷痕にキスを〜有能なホテル支配人は彼女とベビーを囲い込む〜
「違わないだろ。俺は里穂の恋人で、君は俺の彼女。俺は付き合いを申し込んで君に了承をもらったはずだけど?」

 そうだった。
 自分達は恋人なのか。

 そんな言葉が自分にあてはまるのが照れくさいし、どんな顔をしていいのかわからないでいると。

 大人二人が真剣に話していると、空気を読んでいたらしい息子が頃はよしと判断したのか、ハイハイをしてきた。

 なぜか里穂ではなく慎吾の足を登ろうとしている。
 慎吾がひょいと抱き上げて、窓辺に連れていく。

 なんとなく里穂も立ち上がって二人の後をついていくと。

「慎里、聞いたか? お前のおとーさん、慎里のおかーさんに決死の想いで恋心を伝えたのに、スルーされてたんだぞ?」

 我が子に愚痴るではないか。

「おとーさん、OKされて舞い上がってたのになー。地獄に落とされたくらいショック」

 はあ、とため息をついて慎里の頭に顔を伏せた。

 あぶう、と息子が父親の頭をぺしぺしと叩いたのは、慰めているつもりなのだろうか。

 どうしよう、と里穂がオロオロする。

「ん? 『だとしたら道は一つだ、もっとお母さんを口説いて口説きまくれ』? その通りだ、お前はいいこと言うなー。さすが、俺の息子」

 ぶう、とあたかもその通りだと慎里がうなずく。

 慎吾のアテレコとはいえ、どうして二人はこれほどに意思の疎通ができているように見えるのだろうか。

 里穂がなんとなし、やきもちを焼く。
 と、慎吾はニッと彼女に笑いかけてきた。

「心配しなくても俺達の一番は里穂だよ」

 
< 102 / 229 >

この作品をシェア

pagetop