あなたの傷痕にキスを〜有能なホテル支配人は彼女とベビーを囲い込む〜
お試し同居
「行ってもホテルには入れない」

「は?」

「客もスタッフも誰もいない」

 意地悪そうに告げられたが、意味がわからない。
 慎吾はTVをつけた。

『……時のニュースです。クロフォード製剤インターナショナルのスポークスマンによりますと、最近買収した日本のホテル『彩皇』は大改装に伴い、休業するとのことです』

 里穂は固まった。

「そんなわけで彩皇はスタッフも諸共、しばらく休み」

「急にそんなことを言われても……」

 突然の宣言に、ついていけない。

 会社が休業補償を出してくれるわけがない。
 離職したわけでもないから、ハローワークで次の仕事を探すのも難しい。

 これから親子二人、どうすればいいのだろう。

「策は講じてあるんだけど……聞きたい?」

 慎吾は胡散くさいほどに、にっこりと笑う。
 聞くのが怖いが里穂はうなずくしかない。

「じゃあ、交換条件。この家に入れた里穂と慎里の荷解きをしようか」

 ウインクを寄越してくる男にドキっとしてしまい、慌ててにらむ目つきを作った。

「『そんなことで騙されるものか』って顔をしている。ほんと、里穂は可愛いなあ」

 嬉しそうに頬に手を伸ばされた。

 ……彼の手がひんやりするように感じられるのは里穂の頬が熱を持っているからだ。
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