あなたの傷痕にキスを〜有能なホテル支配人は彼女とベビーを囲い込む〜
 届いた物を全て片付けると、すでに夕方。

 恐ろしいことに調理道具や食材の山もある。

 作るようにと言われたら、里穂のための絆創膏と慎吾の為の胃薬を用意してもらうしかない。

 里穂が包丁を握っていたのは施設に入る前だから、余裕で十年は触っていない。 

 一方の慎吾もホテル暮らしが長く、舌は肥えていても手を動かしたことはないそうだ。

「一緒に料理してみるか」

 慎吾にニコッと微笑みかけられ、里穂はおずおずとうなずいた。

 気掛かりそうに床に寝かせた息子をみる。
 慎吾も釣られて彼らの愛しい我が子を見た。

 慎里はたっぷり遊んで疲れたのか、すうすうと寝息を立てて夢の中だ。

「よく寝てるな」
「そうだね」

「敵がいない間にちゃっちゃっと任務を完了しますか」

 ニッと笑った慎吾に、里穂もサムズアップで返した。

 ……二人が一時間ほど悪戦苦闘してこしらえたのは、レンジで温めるだけの冷凍フライと、同じくきんぴらごぼう。

 ご飯はなんとか里穂が炊き上げ、味噌汁のようなコンソメスープのようなものは慎吾が作り上げた。

 出来上がるころには匂いに釣られて慎里も起き出してきた。

 インスタントな食事だったけれど、それでも自分や慎吾が作った料理は今まで食べたどんな物よりも美味しかった。

 
< 88 / 229 >

この作品をシェア

pagetop