"ぶっきらぼうで笑わない女神"の恋愛事情
「それは、人生も同じだと思うんだ。進むべき道がわかっていれば、そこに向かって進めばいいだけだしね。僕には兄がいるんだけど、とても優秀なんだ。強いし、優しいし、非の打ち所がないくらい。自分というものがしっかりあって、揺るがない信念を持ってる。凄く尊敬してるけど、尊敬すればするほど自分の存在価値がなくなっていく。そして自分が嫌いになる」

彼は苦笑いを浮かべた。

「あっ!ごめんね、なんでこんなこと話しちゃったんだろう」

慌てる彼に向かい、かける言葉を探す。

「大丈夫ですよ、私、保護者だから」

「そう来るんだ」

「はい 。……先輩、一つ言ってもいいですか?」

「何?」

「先輩の存在価値ってありますよ」

「え?」

「声」

「声?」

「先輩の声って、唯一無二のものだと思います」

「……そんなこと初めて言われたよ」

「2次元オタクが断言します」

先輩の狐に摘まれたかのような顔が瞬きを繰り返す。

「さっ、着きましたよ」

「えっ⁉︎ あっ、本当だ!真琴さん、送ってくれてありがとう」

「どういたしまして」

「先輩、良い修学旅行を」

「うん」

「じゃあ、さようなら」

「さようなら」

名前も訊かず別れた。

先輩は元気にしているだろうか。
そういえば、顔を隠すための黒縁眼鏡も、彼の真似をしたんだったなと、真琴は彼の顔を思い出そうとしたが、ぼんやりとしか浮かんでこなかった。
もう一度会うことができたら、きっと思い出すだろう。

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