"ぶっきらぼうで笑わない女神"の恋愛事情
「本当はあの時、掴んだ手を離したくはなかった。しかし、ああも激しく振り払われてしまうとね」

彼が苦笑する。

「だが俺は、いつか君を見つけ出す。そう決めた。名前はバッグから飛び出した免許証で確認できたし、君の背丈や仕草、それに顔は、俺の記憶に叩き込んだ」

「名前もバレていたんですね」

「ああ。まさか、君が社員だとは思いもしなかったが」

「渡りに船だったわけですね」

「そうだな」

「専務が初めて出社された日、エントランスでお見かけした時は私も驚きました」

「気づいていたのに無視されていたわけか」

「それは……」

「まぁ、いい。今こうして君と話ができているからね」

彼が腕時計に視線を落とす。

「そろそろ時間だ。君は先に戻れ。仕事とプライベートを混同したくないだろう?」

「まさか、11時50分という中途半端な時間に呼び出したのは、この時間を作るためだったのですか?仕事中に呼び出せば業務命令だと言えるし、お昼になればプライベートとして時間を過ごせる。しかも、仕事中に呼び出したのは、私に支払いをさせないようにするためですよね?仕事中役員に呼び出され、わざわざ財布を持っては行きませんから」

「……想像に任せる。さぁ、仕事に戻りなさい。それから、誰かに何か訊かれたら、俺に手伝いをさせられていたと言えばいい。君のここを貸せと言われたとな」

彼が自分の頭をツンツンと人差し指で突いた。

「かしこまりました。今日はご馳走様でした」

「今夜」

彼が、立ち上がろうとした真琴を静止した。
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