婚活
逆襲
「ただいま……」
玄関のドアが今夜はやけに重たい。
「遅かったわね。ご飯は?」
リビングから顔だけ覗かせた母に、泣いていたのを悟られないよう急いで階段を上り出す。
「食べてきたからいい。お母さん、お風呂出来てる?」
「出来てるわよ」
「冷えちゃったから、お風呂入ってくるぅ」
そのまま部屋に直行し、下着を持ってまた急いで階段を駆け下りお風呂場へと向かった。これで泣いていたのもバレないと思い、服を脱ぎながらホッとしていた。
和磨……。今夜一人なのかな?ふと、先ほどの和磨の後ろ姿が思い出され、胸が痛くなって湯船の中に顔を沈めた。
結局、裕樹は日曜の夜遅くに帰ってきて、彼女と一緒だったらしく上機嫌だった。
紅葉か……。もう、来年から三人で見に行く事もないかもね。
朋美の懺悔から始まった週明け、グッと冷え込んできて朝晩はコートが欲しくなってきた。そして、最初の頃の意気込みは何処へやら?パソコン画面をウィークデイには見る事もなく今週は終わってしまい、慌てて義務感に駆られて金曜日の晩、夜遅くまで画面と睨めっこしていた。こんな事じゃ、ダメだよなぁ。和磨との一件から、自分の将来に図らずも少しは直面した私。せっかく理由はどうあれ、本格的な婚活をスタートさせたというのに……。遅くまで起きていたツケが、土曜日の半日を奪っていった。
あぁ、もう半日寝て終わっちゃったじゃない。そうだ!今日は化粧水が切れちゃったから駅前の30%オフの薬局に、買いに行かなきゃいけなかったんだ。
「お母さん。駅前の薬局行くけど、何か買ってくるものある?」
「それじゃ、洗濯石鹸買ってきて」
「わかった。行ってきまぁす」
昼下がりの午後、お財布と携帯だけ小さなトートバックに入れ、その軽さにかまけて振り回しながら駅へと向かう。銀杏の葉がだいぶ黄色くなってきたな。この銀杏並木は、オスとメスの木が交互に植わってるから銀杏の実がなる。樹木もそうなんだな。男と女が居ないと成り立たない。実らないんだ……。何か、複雑。それにしても、落ちて潰れた銀杏が臭い。この臭いでムードぶち壊しだな。
「姉貴。何やってんだよ?」
エッ……。
銀杏の木を見上げていると聞き覚えのある声がして、後を振り向くと裕樹が立っていた。だが……。その横には見知らぬ女の子の姿もあった。誰?裕樹の彼女かな?
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