婚活
「銀杏の葉の色づきを見てたのよ。紅葉見に行き損なったからさ。何?裕樹。出掛けてたんだ。これから家に帰るの?」
午前中は寝腐っていたので、起きた時にはすでに裕樹は居なかった。故に、裕樹の行動など知る由もなく……。
「彼女と会ってて連れてきたんだ。これから和磨に会うところ」
和磨の名前を聞いて、ドキッとしてしまった。
「そ、そう。 和磨と何処か出掛けるんだ?」
すると彼女が俯いてしまった。
何?私、何かマズイ事でも言った?
「またお馬鹿なお姉様は、勘違いしてるし……」
「お馬鹿なお姉様とは、何よ」
「違うよ。彼女、先月和磨と別れたんだ」
「えっ?」
和磨と別れたって?
「一方的に和磨に言われたらしくて。それで和磨に連絡して、これからファミレスで会う事にした訳。差し詰め俺は、仲裁役のキューピットってとこかな?」
ちょっと待って、どういう事?和磨の彼女は、あの久美子って子なんじゃ……。それとも、まさかあっちこっちに居るとか?何、考えてるのよ、和磨……。
「和磨……」
エッ……。
彼女の声と私の心の声が被り、振り返るとこちらに向かって和磨が歩いてきた。
「何だよ、あいつ。待ちきれずに迎えに来たのか?和美ちゃん。和磨もあんな事言っちゃって、反省してるのかもよ?」
「そう……かな?」
この子が和磨の彼女……だった……の?
「ヨッ!待ちきれずに、お出迎えかよ?」
「裕樹。悪いな」
裕樹は余計な事は言わず、黙ったまま和磨と彼女の対面に、僅かに足を1,2歩後退させ 身を引いた。
「和磨……私、あの人の事、誤解してたの。てっきり二股掛けられてたのかと思っちゃって……。それで……ごめんね」
「別にもう怒ってもいないし、何とも思ってねぇよ」
「和磨」
和磨の言葉を聞いて、彼女の声が少し明るくなった。
「お前さ。俺達の事に他人巻き込むなよ。ただ単に迷惑かけるだけだろ?」
「ごめんなさい……」
和磨。
本当は、こんなに冷静な男だったんだ。いつも面と向かっているから気付かなかったけど、こうやって第三者の目で見てると、和磨は確実に大人の男に成長している。
「悪いけど、俺はそれでもお前にはもう戻れない。その気持ちは変わらないから。それじゃ」
「和磨」
彼女の目から涙が溢れそうになっていた。
「おい、和磨。待てよ、何処行くんだよ」
「ん?駅まで散歩」
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