婚活
和磨の学校は私学なので土曜日でも授業があったが、午前中で授業が終わり、その後、和磨の学校の用事が早く終われば少しだけ会える日もあった。だが……そんな時も、決まってホテルに行っていた。ゴールデンウィークの谷間、和磨の部活もない週末。無料券が手に入ったと言って、映画を観に久しぶりに朝から二人で出掛けた。渋谷で映画を観て食事をしてお店を見たりしていたが、和磨が私の手を握り、いつか通ったホテル街の路地を曲がった。
和磨。
何か……何か、嫌だ。
会うたびにホテルに行くのは、やっぱり嫌。
「珠美。入ろう」
「嫌……」
「珠美?」
「和磨。私……会う度に、こういうところに来るのは嫌だ」
「仕方ないだろ?なかなか会えないんだから、どうしたって……」
仕方ない?
和磨はそんな風に思ってるいの?
なかなか会えなければ、毎回会うたびにこういうところに来てもいいって、そんな風に考えていたの?
「ごめん……。帰る」
「珠美。待てよ」
「離して。ごめんね。私……今日は無理」
掴まれた腕を振り解き、走って路地から出ると、和磨から逃げるように電車に乗った。
何か違うよ、和磨。それだけの関係って感じで、私は嫌だ。そのまま何処にも寄らずに家に帰り、部屋でボーッとテレビを観ながら和磨の事を考えていた。

最近、週末が来るのが憂鬱だったりしている。和磨とは土曜日以来、会ってもいないし、電話もメールもしていなかった。部屋で久しぶりにパソコンを立ち上げ、エントリーしている未来王子の詳細は見ずに顔の画像だけを見ていた。
出逢いか……。
遠い過去の産物のようだけれど、こんな膨大な数の人の中から偶然に出逢うのもやっぱり縁なんだろうな。
「お邪魔します」
「何?和磨。今日は学校じゃなかったんだ」
エッ……。
玄関で裕樹と話している和磨の声が聞こえた。和磨……。裕樹に会いに来てるんだ。私じゃないんだ……。
「和君。いらっしゃい」
「お邪魔してます」
下の部屋から聞こえてくる和磨の声に胸がチクチクと痛んできて、恐れていた事が現実に なりつつあるような、そんな嫌な予感がしていた。
「珠美。和君、来てるわよぉ」
お母さん。
こんな時、どうしたらいいんだろう?
平静を装って、仲良く見せておくのがいいのかな?
「珠美?」
「はぁーい。今、行く」
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