君がたとえあいつの秘書でも離さない

そう言うと、パリから戻ったら連絡すると言い残して、また抱きしめてキスをした。
 
 先に下へ降りると、そこには私を柿崎さんが待っていた。
 
 そしてもう一人、柿崎さんに似た男性がそこにいた。

 「初めまして。柿崎の息子です。堂本コーポレーションの秘書室長をしております」

 綺麗にお辞儀をされる。
 
 「初めまして。あの」

 「匠様は私がお送りします。古川さんは父が。これからお目にかかることもあるかもしれません。どうぞよろしくお願いします」
 そう言うと、去って行く。

 さすがにちょっとびっくりした。
 
 柿崎さんに促されて、乗ってきた白いセダンに乗る。そして、マンションの前まで送ってもらった。

 私は今親元を離れて会社近くのマンション暮らし。実家は関東だが神奈川の田舎のほう。

 とても通いきれず、三年目を機に一人暮らしを始めた。結構適当な性格なので、食事もこだわりはないが、さすがにコンビニ弁当や外食は続けば辛くて、親のありがたみを痛感している。
 
 ただ、彼氏がいる時に実家はやはり面倒。春樹と付き合っている時も外泊が続けば言わざる得ない。そして別れれば心配をかける。難しい年頃だ。
 
 親は結婚を期待するし、まあ、自分だってゴールが考えられる人とお付き合いしたいと思ってはいる。匠さんとのお付き合いは知られたらおそらく心配しかかけないだろう。一人暮らしで良かったと思う。
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