雪降る夜はあなたに会いたい 【上】
連れて来られた場所は、初めて会ったあのマンションだった。
ドアを開けたと同時に玄関に押し込められ、すぐさま唇を奪われる。それは、あの日からかうようにされたキスとは全然違うどこか切羽詰まったものだった。何かに追い立てられるように唇を割られる。その隙間から熱く濡れたものが侵入して来て、激しく蠢き、咄嗟に逃げ惑う。初めて知る他人の舌の感触に、身体の奥の芯が揺さぶられた。
冷たかったはずの唇はいつの間にか熱を帯び、跳ねるように弄るように私の口内を彼の舌が動きまわる。どう応えるものなのかわからない。呼吸さえ上手くできなくて苦しい。
「……んっ」
それでも、その手のひらも唇も、私を解放してくれない。厚い胸板とたくましい腕が私を壁へと追いやり、完全に自由を奪われる。
お互いの吐息だけが、広い玄関に響く。
初めての、こんなにも深いキスに怖くて仕方がないのに、その横で胸の奥が激しく疼いている。そんな自分がどうなってしまうのか怖くてたまらなくて、ただ必死にその胸にしがみついた。最初はただ逃げ惑うだけだったのに、たどたどしくも私の舌は自らも絡み付こうとしている。
こんなの、私じゃない――。
身体が勝手に熱くなって、あちこちが自分の意思とは関係なく跳ねる。強く絡みつく舌に、思わず声を漏らしてしまった。
「んん……っ」
もう身体に力も入らない。立っているのもままならなくなりそうになった瞬間、彼が私をきつく抱きしめた。
深く唇を合わせたまま、あのだだっ広いリビングへともつれるように入って行く。灯りは何一つついていないと言うのに、一面の窓から都心の夜景の明るさが部屋に広がっていた。二人だけの空間は、あの日見たよりもずっとずっと広くて寒々しい。
自分には眩しすぎるほどのまばゆい夜景に思わずもう一度ぎゅっと目を瞑ると、あの革張りのソファに押し倒された。その衝撃で目を開くと、私を見下ろす彼の目と合った。視線が交わったのも束の間、その目はすぐに視界から消える。それと同時に唇が重なって。唇にだけ重ねられていた彼の唇が、次第に違う場所にも触れて行く。
「あ……っ、ん……」
唇が解放されて苦しかった分呼吸をすれば、吐き出されたのは鼻から抜けるような甘ったるい声だった。
こんな声、自分から出ているなんて……。
恥ずかしくてたまらないのに声を止められない。唇が首筋を滑る度に身体が震える。その間にも、私の身体を包んでいる衣服が一つ一つ開かれていく。
「み、見ないでください……っ!」
露わにされた胸を咄嗟に両手で隠した。こんな貧相な身体、この人に見られてしまうのかと思うとたまらなく恥ずかしい。
「隠すなよ」
そう言って私の手を取り、ソファに縫い付けるみたいに押さえつけた。
「やっ……」
両手の自由を奪われて、最後の抵抗をするように顔を思いっきり逸らす。彼の手のひらが素肌に触れて、私はまた声を上げた。骨ばった指の感触が、余計に胸を疼かせる。
「細い身体だな……」
「だから、恥ずかしい……って――」
「少し触れたただけで、壊しちまいそうだ……。でも、手加減してやれない」
その声は掠れていてどこか苦しそうだった。
『手加減できない』なんて言っていたのに、膨らみに触れた手のひらの動きは思っていたよりずっとゆっくりとしたもので。さっきまでの激しさが嘘のように、包み込むように、そっと触れてくる。