雪降る夜はあなたに会いたい 【上】



「夕食、凄いですね!」

客室には、玄関を入るとすぐに居間がある。その和室を挟むように、左側には寝室が、そして右側にはダイニングルームがあった。

 ダイニングルームの大きな窓際にはテーブルが置かれていて、雪の降る景色を見ながら食事ができるようになっていた。まさに、私たち専用のレストランのようだ。

 何を見ても、贅沢だと思う。

 目の前に並ぶ料理だって、器一つ一つが凝っていて、料理が品よく盛り付けられている。箸を入れるのにも躊躇われるくらいだ。

「凄い凄いって言っていないで、ちゃんと食べろ」

向かいに座る浴衣を着た創介さんが呆れたように私を見た。

「なんだかもったいなくて……。でも、もちろんいただきます!」

明るく答えると、少し不服そうな視線を私に向ける。

「もったいないのは、そこにある露天風呂だろうが」
「あ、あの……それは……」

そのことについて、食事前にひと悶着あったのだ。部屋に戻って、お風呂に入ろうと言った創介さんを懸命に説得した。

「自分が言ったことを忘れるなよ? さっきは、おまえの言い分を聞いてやったんだ。食事が済んだら、その時は二人で入ると言ったんだからな」
「は……い」

確かにそう言った。というか、そうとでも言わないとあの場をおさめられなかった。
私を抱えてテラスへ連れて行こうとした創介さんに、焦って声を張り上げたのだ。

『今日は私は姫なんですよね? だったら、私の言うことを聞いてください!』

そして、

『暗くなったら! 夕飯の後なら、いいですから!』

とも。

それで結局、創介さんは露天風呂へ、私は室内にあるバスルームでシャワーを浴びた。

「俺も、自分が言ったことには責任を持つ。この旅では奉仕するって言ったんだから、おまえの言う通りにする。今だって俺は、相当耐えてるんだ」
「え……っ?」

苛立ちをそのまま視線に滲ませている。

「おまえの浴衣姿なんて、初めて見るんだ。本当は料理どころじゃない。女っぽい姿で煽りやがって」
「そ、そんなつもりは――」

そんなことを言われたら、恥ずかしくて隠れたくなる。縮こまる私を見て、創介さんがふっと表情を緩めた。

「姫さまには、落ち着いて食事させないといけないからな。おまえが食べ終わるまでは一切手出ししないから安心しろ」

そう言って私の頬に指を伸ばした。

安心しろって、そんなの余計に落ち着いて食事なんかできない。

それって、つまり、食事が終わったら――。

身体が勝手に熱くなるから、いたたまれなくなる。

創介さんだって鍛え上げられた厚い胸板に浴衣が似合い過ぎていて、目のやり場に困っている。

「ほら、そんなに困った顔をするな。俺が苛めてるみたいじゃねーか」

差し出された徳利に、お猪口を向ける。

「酒は、飲めるか?」
「お正月にお屠蘇くらいしか飲んだことないかもしれません」
「じゃあ、最初は少しにしておけ」

そう言いながら、ほんの少しだけ注いでくれた。

「創介さんはお酒強そうですね」
「まあな。酒は飲みなれてるから」

やっぱり。
なんとなくそんな気がしていた。二人でお猪口を合わせて、一口飲んでみた。

「……美味しいです。それに、凄く飲みやすい」

日本酒なんて、苦いだけだと思っていた。
でもこのお酒は、鼻を抜けるような甘みがあって、そしてさらりとしている。

「おまえでも飲みやすそうなのを選ばせたからな」
「お酒って、美味しいものだったんですね」

お猪口に残っていた日本酒を、一息に飲み干した。

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