雪降る夜はあなたに会いたい 【上】
一月下旬、試験を終え卒業論文も無事に提出することができた。
大学からそのままアルバイト先に行くと、ちょうどシフト上がりの律子さんと顔を合わせた。
「お休みしててすみませんでした。また、よろしくお願いします」
もう大学の授業はない。春休みはバイト漬けの生活になる予定だ。
「こっちこそ、待ってたよー……って、そう言えば」
何故か声を潜め出し、律子さんが私をロッカールームの端へと促す。
「雪ちゃんが休んでる間さ、榊君にいろいろ雪ちゃんのこと聞かれたよ? 雪ちゃんも隅に置けないねぇ」
ぐいぐいと腕をつつかれる。
「……え?」
「そんな顔してる場合じゃないよ。少しはレーダーを張っておかないとね。じゃ、お先」
意味深な笑顔を残して律子さんはロッカールームを出て行った。
――レーダーを張る。
榊君が……?
少し想像をして、すぐに否定する。
私に対して何か特別な感情なんて、あるわけない。
男の人に好意を寄せられるという経験をしたことがない私にとって、恋愛ごとはまるで現実味のないもの。創介さんだけが私にとっての男の人なのだ。
あの旅行から一か月以上が過ぎた。時折来る創介さんからのメッセージだけが私たちを繋いでいる。そんな状態も今に始まったものではない。
それでも、創介さんは優しいと思う。
私に説明なんてしなくてもいいのにどういう状況かを知らせてくれる。出張後の処理とそれに並行して新たな難しい仕事もあって気が抜けないのだと教えてくれた。
でも、ここ数日は音沙汰がない。ただ忙しいのであればいい。
何もなければ、それで――。
相変わらず途切れることのないお客さんに、ひと時も止まることなく働き続けた。一緒にフロアに出ていたのが榊君だからか、かなりフォローしてもらっていた気がする。
アルバイトを終えて裏口から外へと出ると、冷たい塊が頬に落ちた。
あ、雪だ――。
そう言えば昼間の空は、太陽の気配なんてまったく感じられないほどの分厚い雲に覆われていた。気温もかなり下がっていたから、雪が降っていてもおかしくはない。
東京というところは、少しの雪ですぐに交通機関が乱れたりする。足早に駅へと向かおうとしたところだった。
「――戸川さん」
路地裏の暗がりから声がする。
「……榊、君?」
すぐに本人の姿が目の前に現れた。でも、その表情はどこか緊張しているように見える。
「どうしたの? 雪降ってるし、寒いよ――」
「ごめんね、こんなところで待ち伏せしたりして。どうしても、今日、戸川さんに会いたかった」
「会いたいって……」
つい一時間前まで一緒に働いていたではないか。
穏やかで落ち着いた雰囲気はなりを潜め、どこか追い詰められたような表情をした榊君に思わず後ずさる。
「君に伝えておきたいことがあって」
一歩、榊君が私との距離を詰める。
「……僕、戸川さんのこと、好きなんだ」
え――?
「君のこと好きになっちゃった」
「ちょ、ちょっと待って」
あまりに唐突過ぎる言葉に、既に混乱していた心は戸惑いに変わる。