雪降る夜はあなたに会いたい 【上】
「家で休むより、雪野の顔を見た方が疲れが取れる。どうしても雪野の笑った顔が見たくなった」
それなのに、あんなところを見られてしまった――。
「私なんて、何もしてあげられていないじゃないですか……」
会おうと言われた時にこうして会うだけで、何もしてあげられない。
創介さんの抱えているものを何も知らずに、私はここにいるだけだ。
「こうして傍にいてくれるだけで、ホッとするんだよ」
いつも堂々としている創介さんが弱々しく笑うから、たまらなくなって私は言ってしまっていた。
「傍にいるだけでいいなら、いつだって傍にいます」
許される限りは、創介さんの傍にいたい。創介さんが必要だと思ってくれるなら、傍にいたい。
「雪野……」
私を抱き寄せた。それは、さっきまでのものとは全然違う、労わるようなものだった。
背中に置かれた手のひらも、頭に添えられた手のひらも、じっと動かないままだ。
創介さんが息を飲んだのが分かる。
「……頼みがある。理人とは、あまり関わらないでくれ」
そうして吐かれた言葉は、どこか苦しげだった。
「同じ店で働いているんだから難しいとは思う。でも、出来る限り理人には――」
「分かりました。創介さんの言う通りにします」
創介さんの肩に頬を寄せた。紺色のスーツの生地がひんやりと湿っている。
「……創介さん、まだ濡れてます」
「ああ……。雪が降ってたからな……」
傘もささずに私の所へ来たということ。
本当に、ただ疲れただけですか?
本当は、他に何かあるんじゃないですか――?
心の中にざわざわと不安が立ち上る。何か、とても落ち着かない。
はっきりとは見えない不穏な影が少しずつ忍び寄って来る感覚を振り払いたくて、ただ創介さんの胸の中にいた。