雪降る夜はあなたに会いたい 【上】


「あの家で暮らし始めた日からずっと、あの男に何もかもを奪われ、踏みにじられて生きて来た」

榊君のお母さんが創介さんの父親の後妻として榊の家に入った。その時には既に榊君は生まれていて、創介さんと榊君は異母兄弟なのだと言った。

「あの男は僕の母さんが気に入らないからと、嫌というほど苦しめ続け、僕たち親子を追い出そうとした。榊家の長男という自分の立場を利用して、僕からとことん居場所を奪って行った。母さんには、父親のいないところで酷い言葉で罵り続けた!」

私の知らない、創介さんと榊君の過去――。

穏やかで静かに佇んでいるような榊君が、綺麗な顔を歪めて感情のままに言葉を吐き出して。
それが、彼の中に深く深く根付いている創介さんに対する憎しみの証だ。

三年前、木村さんが言っていた言葉を思い出す。

『あいつはね、小さい頃に母親が死んでから、一緒に心もなくしたの。いろいろあの家は複雑だから。どんな酷いことも、顔色一つ変えずに出来ちゃう人間』

創介さんのお母さんが亡くなった後、榊君を連れた新しいお母さんが現れた。そういうことなのだろう。

「それだけじゃない。あの男は、女のことなんて虫けらくらいにしか思っていないよ。その場限りに女を抱いて、用が済んだら冷たく突き放す。本当に反吐が出るよ」

兄弟として、間近で見つめて来た榊君の知る創介さん。
ただ見ていただけではない。榊君自身も傷つけられて来たのだ。

「それがあの男の本性だ。君が見ているのは本物のあいつじゃない。目を覚ませ。正気に戻るんだ!」
「――それなら、知ってるよ」

俯いたままそう言うと、榊君が「えっ?」と声を漏らした。

「初めて会った時から、分かってる。だから、榊君から何を聞いてもこの気持ちが変わるわけじゃない」
「君は、馬鹿なのか……? 分かっていて、なんで一緒にいるんだよ」

苛立ったように声を上げた。

「――馬鹿、なのかもしれないね。どうしてだろうって考えたこともあったけど、でも、心が言うことをきいてくれなかったから。好きだっていう気持ちに抗えなかった」

この関係を続けるただ一つの理由。
それは、私が創介さんを好きだからだ。


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