雪降る夜はあなたに会いたい 【上】
「――戸川雪野さん、ですね?」
その日はアルバイトのない日で。近所のスーパーに買い物に行こうとしていた時だった。
私の住む団地に、見知らぬ男の人が立っていた。
古びた市営団地の並ぶこの場所に、まったく似合わない雰囲気を醸し出している。眼鏡の奥には感情の一切見えない目と、きちんとしたスーツを身にまとった紳士だ。
「……あの、一体、どちら様で――」
私にこんな知り合いはいない。一女子大生とは無縁の人だ。警戒心を露わにして、その人を見つめた。
「倉内と申します」
差し出された名刺を見て身体が強張る。
"(株)丸菱 "
「丸菱」って、創介さんの……。
恐る恐る受け取った名刺を手にして、緊張が身体を駆け巡る。
「本日は、榊創介氏のことで戸川さんにお話があって参りました。お時間、いただけますか?」
抑揚のない淡々とした声でそう言われて、私は固まったまま声も出ない。
創介さんの関係者がこんな風に現れたことなんてこれまで一度だってない。
それが、何を意味するのか。
そんなこと分かり切っているのに、足元はがくがくと震えていた。
アルバイトをしていることが多いのに、アルバイトのない日に来た。
そして、私の家を知っている――。
きっとこの倉内さんと言う人も、私のことを全部調べている。それくらいのこと、なんでもないように出来るような人たちだ。
逃げ出したくて仕方がなかったけれど、でも逃げられるはずもない。
私のようなただの女子大生が、目の前の人に敵うはずもない。
「分かりました」
震える身体を腕で懸命に押さえた。