アネモネ



あれから40年、
戦後の闇市で成功し、小さいながらも一国一城の主人となったが、
透子との約束を破った負い目を感じていた私は、
妻を娶る事はなかった。

「早瀬、彼女は未だ結婚もせずに独り身だぞ、、」

「なっ、、どうしてだ!」


「近所の話では、出征した許嫁に操を立てて今も待ち続けているらしい、、、早瀬、お前をだ」


「ばかな、俺は戦死した事になってるはずだ、
 死んだ人間を待ち続ける奴がいるか!」


ん、待て、、誰かが口を滑らせたか?

俺が生還したのを知っているのは母と清吉さんだけのはずだ、二人とも口は軽くない、、
 あとは、近しい軍人仲間か、、

それでも、彼女の耳に入る事はまずないだろう。


「どうする早瀬? 
 近所の人の口ぶりでは、あとひと月ともたんぞ」

「今更、
 どのツラ下げて彼女に会う事ができようか、、」


竹田は顎髭を摩りながら真剣に考え込んでいた、


何故そこまで俺の話に親身になる、、

こんな奴だったか?

自分の事しか考えない、
計算高い男だと思っていたが、、

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