アネモネ

「理由はどうあれ、彼女が戦後40年以上経った今でもお前を待ち続けているのは事実だ、
自分の気持ちなど捨て置いて、
会ってやるのが報いというものだ」

「・・・・」

奴の言う事は正しいのではないか、、

確かに私の気持ちなどどうでも良い、
私を信じて一途に待ち続ける彼女にしてやれる事は一つしかない。

「わかった、恥も外聞も捨てて会おう」





めっきり春めいた弥生三月、
山の木々が、
暖かな春風に歓喜し新緑が芽吹く季節

40年ぶりに訪れた故郷の地は、清々しい澄んだ空気に包まれていた。

村道を進めども、見知った顔は何処にもない。

長き月日が全てを変えてしまっていた、


入母屋造りの本宅は、この土地に根付く盟主の住まいに似つかわしい。

開け放たれた冠木門をくぐり、
大声で来客を告げると、やがて女中らしき人物が現れ要件を尋ねられた。

「主人が在宅しておりますので、どうぞ中へ」


丁寧に手入れされた庭木の間の飛石を、
遊び感覚でゆっくりと歩を進める。

庭木の下には珍しい紫のアネモネが咲き誇っていた、

見渡せど、何故か、、紫ばかりだ、、女中に促されて玄関を入ると、
式台に腰掛け、待つように指示された。

< 12 / 18 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop