アネモネ
「理由はどうあれ、彼女が戦後40年以上経った今でもお前を待ち続けているのは事実だ、
自分の気持ちなど捨て置いて、
会ってやるのが報いというものだ」
「・・・・」
奴の言う事は正しいのではないか、、
確かに私の気持ちなどどうでも良い、
私を信じて一途に待ち続ける彼女にしてやれる事は一つしかない。
「わかった、恥も外聞も捨てて会おう」
めっきり春めいた弥生三月、
山の木々が、
暖かな春風に歓喜し新緑が芽吹く季節
40年ぶりに訪れた故郷の地は、清々しい澄んだ空気に包まれていた。
村道を進めども、見知った顔は何処にもない。
長き月日が全てを変えてしまっていた、
入母屋造りの本宅は、この土地に根付く盟主の住まいに似つかわしい。
開け放たれた冠木門をくぐり、
大声で来客を告げると、やがて女中らしき人物が現れ要件を尋ねられた。
「主人が在宅しておりますので、どうぞ中へ」
丁寧に手入れされた庭木の間の飛石を、
遊び感覚でゆっくりと歩を進める。
庭木の下には珍しい紫のアネモネが咲き誇っていた、
見渡せど、何故か、、紫ばかりだ、、女中に促されて玄関を入ると、
式台に腰掛け、待つように指示された。