アネモネ

さすが村一番の資産家の邸宅のことだけはある、

数寄屋造りのあちこちに今ではなかなか手に入らない貴重な木材がふんだんに使われていた。


やがて五十代と思しき和服姿の女性が現れ、玄関の上り框に静かに膝を折り腰を降ろした。

その仕草がどうに入り育ちの良さが滲み出ていた。

「早瀬さんで御座いましょう」

「私を知っているのですか?」

「透子の妹の彰子と申します、
 よくぞご無事でご帰還なされました、、」

突然の来訪に驚いた素振りも見せず、
彼女は玄関に座したまま深々と頭を下げると、
真っ直ぐに私の目を見つめ、
次の言葉を催促した、、


「40年も過ぎてしまっては合わせる顔もないと思案致しましたが、透子さんの明日をも知れぬ病状を聞き及んで恥も捨てて足を運びました」


「何故、もっと早く来て下さらなんだ」

感情は抑えていても、
私を問い詰めるような口調に、たじろいだ、、

「申し訳ない、生き恥を晒したこの醜い顔を透子さんに見せる勇気が私には無かったものですから」


言い訳がましく聞こえたのだろうか、
彼女は更に語気を強めた。
< 13 / 18 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop