アネモネ
「花嫁人形は亡くなった父がこさえたものです。
父は入婿ではなく新家としてあなたを迎えるつもりでした。ですから、姉が早瀬さんの元へ嫁げば、
姉の代わりにこの人形が父の手元に残る筈でした、、、
その父も2年前に亡くなりましたが、、
姉も花嫁衣装が着たかったでしょうし、
父もそれを切に望んでおりました」
止め処なく流るる涙を拭う事もせず、口を真一文字に結び、私は悲しみに必死に耐えていた、、
「透子さん!
すみません、、許してください」
私は畳に突っ伏して、白無垢の花嫁人形に向かって土下座をして謝った。
深慮に欠け、取り返しのつかない結果を生んでしまった。
「早瀬さん、この小窓からも見えますが、
庭にアネモネの花が綺麗に咲いていたでしょう、
姉が丹精を込めて育てていたんです」
「、、アネモネはいろんな色があるはずですが、
どうして、、紫ばかりなんですか?」
「初めの内は白も赤も青もありました、、
でも、年が経つにつれ私も気づかぬうちに紫だけになっていたんです、その理由を姉に訊ねるまでもなく私は得心しました。
アネモネは色によって花言葉が違うんです、
紫の花言葉は、
姉の心の叫びそのものだから、、」
「教えて頂けますか? その花言葉を、、」