アネモネ


そんな私には親が決めた許嫁がいた、

分家する程の土地や財産を持たぬ農家では、
長男が本家の跡を取り、次男・三男は跡取りのいない他家に婿養子に入るのが一般的で、物心がついた頃には既に両家の縁組は決まっていた。

お相手の女子は村でも一番の資産家の娘で、妹はいるが跡取りとなるべき男子は生まれ出ない、
家の存続を危ぶんだ当代が、いち早く娘の婿取りに奔走して、めでたく縁組の運びとなった訳だが、
当の本人達は幼すぎて実感がわかなかった。


「初めまして辰哉さん、
 透子と申します。宜しゅう」

尋常小学校の三年生で、二つ年下の透子と初めて顔を合わせて以来、
私と彼女は同じ学校生活を送っていた、
低学年のうちから整った目鼻立ちをしていた彼女は長じては誰もが羨む器量良しとなり、私の方が不釣り合いに思えてならなかった。
親が決めた縁組とはいえ、透子は一途な好意を私に示してくれていた。


「辰哉さんは、お子は何人お考えですか?」

「貧乏でも子沢山の方がいい、家の中が賑やかになる」


私に優しげな眼差しを向けそっと頷いた、

「私もそう思います、、」

それが本心か否かはさておき、
男を立てて恭順する態度は、やはり誰もが認める器量良しなのだろう。

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