アネモネ
「辰哉、妹の珠美さんが婿を貰ってお前の家を継いだ、どうするべきか自分で考えろ」
清吉さんは、暗に家には戻るなと諭している。
私が帰る事で平穏な家族に波風が立つと、、もう私には帰る家はない、
こみ上げる郷愁の念と共に、今にも零れ落ちそうな涙を必死に咽喉の奥へと呑み込んだ、、
移りゆく時代の狭間で、自分の居場所を探して、
私は彷徨わなければならない。
家族を守るべく、銃弾の雨の下に我が身を晒した結末がこれなのか、、
悔しくて、遣る瀬ない、、
「、、、清吉さん、了見しました。
ただ母に一目会わせて下さい、願いが叶えば私
は此処を去ります」
「お前は昔から機微のわかる奴じゃ、願いは叶えてやる。許嫁が居ただろう、あの子はどうする?」
「私の顔を見てください、こんな姿ではとても透子を迎えには行けません。
生きて帰れば迎えに行くと約束しましたが、、
彼女は清吉さんの判断にお任せします、
どうぞ、よしなに」
死んだ事にしてくれ、そう頼んだつもりだった、、
待合室では誰かの目に触れるかもしれないと、使われていない駅長室に押し込められて小一時間ほど待った、
やがて清吉さんが母を伴って戻ってきた、