これが恋だなんて、知らなかったんだよ。




「け、怪我は…」


「怪我?あー、うん。いっぱい走って疲れた」


「……えっと、足を捻ったり、挫いたりは…」


「なにも外傷だけがすべてじゃないから」


「………」



騙された、ということでいいのかな。

まんまと後輩の罠に引っかかってしまった私を射抜くのは、いつも以上に目を奪われてしまう雰囲気の三好くん。



「来なよ、センパイ」


「…私、このあと……障害物リレーの、」


「ゴミクズ野郎?」



三好くんのなかで勝吾くんの呼び方は、これで決定らしいのだ。


そりゃあそうだ。

三好くんにとっても勝吾くんは憎くて憎くて仕方のない男だろうから。



「センパイは俺の彼女でしょ」



少し前に図書室で読んだ、日本を代表する作家の太宰 治という人の人間性に着目した本の内容を思い出した。

その人も素性はかなりの女たらし、人たらしだったらしく。


曖昧な関係をつづける太宰 治に不安になった女性が関係を問い詰めると、彼も今みたいなセリフを当たり前のように言い放ったという。


君は僕の妻だろう───と。



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