神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
プロローグ
――――――…死人に口無し、という言葉がある。



人間は、都合の悪い出来事をなかったことにしたがる生き物。

だから殺す。

都合の悪い人、都合の悪い出来事を、なかったことにする為に。

死んでしまえば、全ては無に帰る。

どろどろに淀んだ悲劇は、全て美談となる。

生きている間に起きたあらゆる事象が、全て過去になる。

だから殺す。

誰しもそう。自分にとって都合の悪い人がいるなら、死体にすれば良い。死体になれば良い。

そうしたら、何もかも全てが解決する。

誰にも平等に、等しく訪れる命の終わり。

それは同時に、あらゆるしがらみに満ちた、現世からの解放だ。

死んでしまえば、もう何も感じることはない。何も憂うことはない。

時間の経過と共に、死人達は風化され、忘れられ、過去という箱の中に入れられ、忘却という蓋をされる。

人間の命なんて、そんなものだ。

それが自然の摂理であり、この世の理である。












…本当に?





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