神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
「…そう、だ」

…思い出した。

思い出したよ、私。

何で今まで気づかなかったんだろう。この指輪の存在に。

何もかも、ようやく思い出した。

シファちゃんが気づかせてくれた。

私の右手に光る、この指輪。

「これは…これはね、結婚式のときに…嵌めてもらったんだ」

「は?結婚式?」

そう、結婚式だよ。

「魔除けの意味があるの。それから、行動力を高める…」

だから、右手の中指に嵌めてるの。

教えてくれたから。

…「彼」が、私に。

「え、ちょっと…。ベリーシュ、何言って…」

「私はベリーシュじゃないよ」

やっと思い出したから。自分の名前。

響きはちょっと似てるけど、でもそれは私の名前じゃない。

私の偽物の名前だ。

「…私はベリクリーデ。聖魔騎士団魔導部隊大隊長、ベリクリーデ・イシュテアなんだ…!」

口にして、一層はっきりと思い出した。

一度思い出してしまうと、あれだけ分厚く私を覆っていた灰色のモヤが、綺麗さっぱり消えてしまった。

何で、今まで思い出せなかったのか。

こんなに簡単なことなのに。

そして、私を探してくれている、あの声。

あれは「彼」の声だ。

忘れない。もう、決して忘れたりしない…!



…そのときだった。



「…!!」

私は、ハッとして顔を上げた。

…この閉ざされた世界の扉を、誰かが殴りつける音がした。

…呼んでる。

「彼」が…私を呼んでるんだ。

「…ジュリス…!」

その名前を口にしたとき。

私の中に、無限の力が湧いてくるのを感じた。
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