神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
「蓋…蓋か…どうやって開けよう…?」

言っとくが、持ち上げようとしたって無理だぞ。

俺達の今のサイズじゃ、たかが鍋の蓋でも、重過ぎて歯が立たないだろう。

しかも、肩車するってことは、片方だけしか登れないってことだし…。

一人で鍋の蓋を持ち上げるなんて、絶対に無理だ。

すると。

「…仕方ない、羽久。ここは…申し訳ないけど、力技で行こう」

と、シルナが言った。

「力技?」

「魔法で、蓋に穴をあけるんだよ。もっとも、蓋を破壊することは出来なくても…穴を開けて、中を覗き込むくらいは出来るんじゃないかな」

…成程、その手があったか。

菓子ばっかり食って、どうにもならない奴だと思ってたけど。

たまには良いこと言うんだな。

ちょっと見直したよ。さっきの、テーブルの上での醜態は見なかったことにしてやっても良い。

「…何だか、羽久が私に失礼なことを考えてる気がする…」

「よし、分かった。やってみよう。…俺が登るから、肩車してくれ」

「羽久が登るの?」

シルナに肩車してもらうなんて、俺だって気は進まない。

が、そうするしかあるまい。

「おっさんの腕力じゃ、取っ手に掴まってよじ登れないだろ」

「う…」

さっきテーブルクロスをつたって登るだけでも、ギリギリだったのに。

俺は敬老精神に溢れる、良い大人だからな。

ここは、俺が頑張ってやるよ。

「分かった…。じゃあ、やってみようか」

「よし」

…しかし、肩車までして、片手鍋によじ登る日が来るとはな。

人生って奴は分からないことだらけだ。

我ながら、何やってんだろうなぁとは思うが。

これでも、必死に生き延びようと頑張ってるんだよ。

「おいシルナ、ふらふらするな!」

「うぐ、ぐぬ、だって。おも…、」

「お前ほどじゃねぇ。しっかり立て!」

お前は肩車するだけだろ。シャキッと立てよ。

「と、とど…届き、そう…!?」

「もうちょっと…もうちょっとだ」

腕を一杯に伸ばして、俺は鍋の取っ手に手を伸ばした。

絶妙に…高さが足りない。

シルナがチビなせいだな。

「は、羽久が私に、し、失礼なことを、考えっ…」

「ちょ、揺らすな馬鹿!ちゃんと立て!」

「そ、そう言われても…」

…よし、こうなったら。

「…ふにゃっ!?」

「変な声出してないで、ちゃんと立ってろよ」

俺は、シルナの肩に足をかけ。

「…ふんっ!」

シルナを踏み台代わりに、勢いよくジャンプ。

その勢いのままに、片手鍋の持ち手を掴んだ。

よしっ、届いた。

片手鍋の持ち手を掴み、俺は一気に片手鍋によじ登った。
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