神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
XIII
―――――――…青い、光に包まれ。

私が降り立ったのは、目がちかちかしそうなカラフルな部屋だった。

…ここは?

気がつくと私は、ハンガーにかけられた、たくさんの…ドレスに囲まれた部屋にいた。

カラフルだと思ったものは、どうやらこのドレスの数々だった模様。

見たところ…衣装部屋、のようですね。

ここは、『不思議の国のアリス』が作り出した世界。

くそったれなハンプティ・ダンプティに、『不思議の国のアリス』について説明され。

アリスのお茶会とやらに参加する為、私達はそれぞれ、お茶会の招待状を探さなければならないらしい。

…非常に面倒ですね。

全く、私はこのようなことをしている暇はないというのに。

魔導教育委員会に提出する書類が、まだ書きかけのまま職員室の机の上に放置されているし。

来週授業で使う資料も、まだ完成させていない。

下らないお茶会などさっさと済ませて、学院に戻りたいですね。

アリス云々などより、明日の授業のことの方が、私にとっては遥かに大事です。

…それで、この部屋は一体何なのか。

私が引いたトランプのカードは、ハートのクイーンだった。

つまりここは、さしづめ「ハートの女王の世界」ということなのでしょう。

…非情にどうでも良いですね。

…そのとき。

衣装部屋の窓から、外の景色が見えた。

思わず、私は窓辺に歩み寄った。

…窓から見える、この世界の外の景色。

「…気色悪いですね」

さすがは不思議の国、といったところでしょうか。

青いはずの空は白く。

白い雲の代わりに、金色の懐中時計が宙に浮き。

おまけにその時計の針は、過去を刻むかのように逆回転していた。

…ふん。

こんなこけおどしで、私がびびるとでも思ったのでしょうか。

だとしたら、片腹痛いですね。

…ともあれ。

気色悪い外の景色を、悠長に眺めている暇はない。

制限時間までに、アリスのお茶会の招待状…とやらを、見つけなければならないんでしたね。

じゃあ、さっさと探すとしましょう。

まずは、この雑多な衣装部屋から。

あまりにたくさんの衣服が散乱していて、思わず全部ゴミ袋に叩き込みたくなるけれど。

残念ながら、掃除をしている暇はない。

一枚一枚ドレスを退かして、早速招待状を探し始めた…。



…そのとき。

「…ケケケッ」

「…」

非常に不愉快な笑い声が聞こえて、私は振り返った。
< 409 / 634 >

この作品をシェア

pagetop