神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
「rltea oge、yopc…」

シルナが杖を振ると、その周囲に、無数のシルナ分身が現れた。

ワンチャン、分身はもとのサイズだったら良いなぁと思ったのだが。

やっぱり、ミニチュアサイズの分身だった。

しかし、シルナはそんなことでは落胆しない。

「…solinesh」

今、シルナが出せる最大出力の魔法が、シルナの杖に宿った。

テントウムシサイズとは思えないほどの魔力だ。

更にこの魔力を、何倍にも「強化」して、冷蔵庫のドアに叩きつけ、風穴を開ける。

馬鹿みたいな力押しだが…出来ないことではない。

「…rirorm」

シルナの莫大な魔力が、光の速度で分身達に反射。

何倍、いや…もとの火力の何十、何百倍にも威力を増した、眩しいほどに強大な魔力の塊が。

「…っ!!」

凄まじい爆音を立てて、冷蔵庫のドアに叩きつけられた。

庫内が、がくんがくんと揺れた。

…危うく、俺まで吹き飛ばされるところだった。

チーズの影に隠れて、衝撃を受け流した。

もうもうと立ち込める煙が、ようやく晴れると。

無数のシルナ分身は消えて、本体のシルナのみになっていた。

「…シルナ…!」

「はぁ…はぁ…」

珍しく息を荒くしたシルナが、その場にがくんと膝をつきそうになった。

それを、俺はすんでのところで支えた。

「シルナ…!大丈夫か?」

「うん…だ、だいじょう、ぶ…」

…とてもじゃないが、大丈夫そうには見えないぞ。

「お前…!無茶しやがって…」

「…あはは…。久し振りに…ちょっと頑張ってみちゃった…。…けど…」

…けど?

シルナは、すっと目の前を指差した。

「『成果』は…あったみたいだよ」

「…あぁ、そうだな」

固く閉ざされていたはずの、冷蔵庫のドアに…風穴が開いていた。

精々、普通サイズの人間の、親指くらいの大きさではあるけども。

今の俺達が脱出するには、充分な大きさだった。

…ざまぁ、チェシャ猫。

ここから出たら、約束通りお前の毛を毟ってやるからな。

「…行くぞ、シルナ」

「…うん…!」

俺は招待状を二通、口に咥え。

両手でシルナを支えながら、冷蔵庫の外に飛び出した。




…その瞬間、俺達はここに転送されたときと同じ…青い光に包まれた。

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