神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
全く、シルナの戯言には付き合ってられん。

俺が止めずにいると、シルナはせっせと、チョコレートを小分けにしていた。

俺はシルナと違って、チョコ中毒じゃないからさ。

その小分けチョコくらいで、ドッペルゲンガーが納得して、お引取り願えるとはとても思えないけど。

本人がそうしたいなら、やらせておけば良いよ。

まぁ、でも。

童話シリーズって、子供の玩具らしいから?

甘い物をプレゼントしたら、案外喜ぶのかもしれない。

…その可能性は、限りなくゼロに近いけどな。

ともあれ、シルナの好きにさせておけば良いや…。

…と、思っていたそのときだった。

コンコン、と学院長室の扉がノックされた。

「ん?誰か来た?」

「あぁ、来たな」

誰だ?こんな時間に。

今は、まだ五時間目の授業中だぞ。

「はーい、入って良いよ〜」

シルナが、扉の向こうに向かって声をかけると。

ゆっくりと扉が開けられた。

そこに現れた人物に、俺はびっくりした。

…え?ドッペルゲンガーがやって来たのか、って?

残念。それは違う。

生徒だった。うちの学院の男子生徒。

…真っ青な顔をして、ふらふらと足元の覚束ない、ぐったりした男子生徒。

俺も、シルナも、びっくり仰天していた。

シルナなんか驚きのあまり、詰めていたチョコレートをポロポロと床に落としていた。

ちゃんと拾えよ。それ。

いや、そんなことより。

「れ、れれれレント君!?大丈夫!?」

シルナが慌てて、男子生徒に駆け寄った。

この子、レントって名前なのか。

名札を見ると、まだ二年生だった。

俺が名前を覚えてない訳だよ。

その点、入学早々、全ての生徒の顔と名前を完璧に暗記するシルナは大したものだ。

頭悪そうな顔をしてる癖に、こういうときは驚異的な記憶力を発揮するからな。

「羽久が私に失礼なことを考えてる気がするけど、今はそれどころじゃないや!」

「そうだな」

「どうしたのレント君?熱?熱あるの?」

「とりあえず座らせろ。立ってるのもしんどいだろ」

レントの具合が悪いのは、誰が見ても明らかだ。

「レント君、ほら、掴まって…」

「…済みません…」

シルナが肩を貸すようにして、レントをソファに座らせた。

ぐったりとしたレントは、ソファに倒れ込む勢いで、背もたれに寄りかかった。

「だ、大丈夫?どうしたの、熱があるの?」

「…済みません…」

「謝らなくて良いんだよ。えぇと、まずは、た、た、体温計…」

「その前に水だろ。ちょっと入れてくるから待ってろ」

俺は、水を持ってくる為に席を立った。
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