38年前に別れた君に伝えたいこと
「うぇ、麻由ちゃん重たいよ!」
妻がいきなり僕の上に跨がって顔を覗き込む。
「圭ちゃん、ど・こ・か・行きたい!」
「わかったから、もう降りて、苦しい、、」
歳を取っても変わらない、
妻のこういう子供っぽさが、僕には堪らなく愛おしい。
「麻由ちゃん、2キロぐらい太ったん...イタッ」
僕が言い終わる前に、枕が飛んできた。
妻は頬を膨らませて怒り顔を作ると、
「もう絶対、言うと思った!
毎晩、圭ちゃんの晩酌に付き合ってるからじゃない!」
あたかも太った原因が僕にあると言いたげに睨みつけた。
否定はできない、サラリーマンと違って仕事の帰りは遅い、
帰宅時間が夜の8時を回ることもザラだった。
そんな時間からの酒を飲みながらの食事が身体に良いはずがなかった。
「ごめんね麻由ちゃん、でもさぁ
僕は、あのひと時が1日で1番幸せなんだ」
「知ってるよ、私もそうだから」
妻は、笑みを浮かべて相槌を打つと、僕の胸に沈み込むように頬を寄せた。
若い時は、忙しいだけの仕事に追われて、なかなか遊びに連れ出してやる事も出来なかった、経済的余裕ができた今、仕事を減らしてもう少し彼女の事を考えてあげたい。
そう思っていたのだが、、
時間に余裕ができても仕事以外に趣味を持たなかった僕には、特にやりたい事が見つからない。
逆に時間を持て余すようになってしまった。
そんな僕の日々の様子を妻は良く見ていて、休みの度に何処かに連れて行けとせがむようになった。
「麻由ちゃんは、何処に行きたいの?」
「う〜ん、圭ちゃんの行きたいとこ」
妻も取り立てて何処かに行きたい訳ではないと思う。
ただ家の中で、何の目的もなく1日を過ごすのが嫌なのだろう。
ベッドの上で身体を伸ばしながら、考えを巡らせた、、
「麻由ちゃん、海までドライブでもするか?」
「うん、それがいいよ、もうすぐ夏だしねー、
圭ちゃん! カニ食べ行こう〜」
「、、麻由ちゃん、そんなフレーズあったね」