38年前に別れた君に伝えたいこと


すぐ横を走る中央線の高架だけが当時と変わらない面影を残していた。

赤茶色に錆びついた高架の下は商店街になっていて、38年前の当時から営業を続ける店も残っていた。懐かしさに自然と笑みが溢れる、

その中央線の高架横、大通りから一本入った所に彼女の家はあったはずだった、

車を停めてハザードランプを点け、辺りを見渡した、、

たしか、此処じゃなかったかなぁ、

ところが、此処だど思った場所には、記憶とは程遠い三階建の建物が建っていた。

表札も看板も出ていないので、個人宅なのか会社の事務所なのかも判断できなかった。

彼女は、まだ此処に住んでいるのだろうか。


女の子の場合、結婚して家を離れると所在が分からなくなってしまうことが多い。

20年も30年も経った同窓会で女の子が集まらないのはその為だろう。


個人情報の扱いに全く無防備な時代、当時の卒業アルバムには、生徒の住所も電話番号も記載されていて、連絡を取るのは容易に思われるが、それは今も変わらず其処に実家が存在する場合に限られるのではないだろうか。

実家が残っていれば、例え本人が結婚して家を出ても、両親なり兄弟なりがまだ其処に住んでいる可能性が高いからだ。

地元の子供達が集まる小・中学生ならいざ知らず、
高校生ともなると通学範囲も広く高校以外の共通の友達もいない。

つまり、実家が無くなってしまった事で、彼女を探す術を無くしてしまった気がした。

其処に彼女が住んでいた家が有るだけで、その気になればいつでも会える、長い間ずっとそう思っていた。

ふと、寂しい感情が込み上げて胸が締め付けられた。

二度と会えないと思うと、
会いたい気持ちが強くなるのは当然の事だろう。

彼女のことを折に触れて思い出す事はあっても、
それは青春時代の淡い記憶の一欠片であって、
長い年月が経った今では好き嫌いの感情すら忘れてしまっていたのに。

彼女は今、何処で何をしているのだろうか。
愛する人と可愛い子供達に囲まれて、幸せに暮らしているだろうか、

僕が、幸せにしてあげられなかった人。

38年前のあの時、"さよなら"も言ってあげられなかった君に、何か伝えたいことがあった気がする。
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