38年前に別れた君に伝えたいこと
「私が始まりって事ですか?」
「そう、私より前、彼にとって大好きな人が見せた初めての大粒の涙、それが余りにもショックで自分の幼さ無力さを悔やんで、もう二度とこんな間違いはしないと心に誓ったんじゃないかな、
高瀬さん、私は断言できるわ、
もしあの時、貴女の方から別れを切り出さなければ、彼は死ぬまで貴女を愛し続けた。余程の事がない限り彼の方から別れを告げる事なんてないから。私には分かるの、彼はそういう人、、
私が邪魔さえしなかったら、彼はそこまで貴方に伝えたかったんじゃないかな」
もう駄目だ、、涙が、止まらなくなってしまった。
私は圭くんの事を何もわかっていなかった、、
彼の何を見ていたんだろう、、
上辺だけの優しさに満足して、彼の真の愛情に気づかずにいた、、
幼すぎたのは私の方だ、、
圭くん、、ごめんね、、、でも、
「どうして河崎さんじゃなくて私なんですか?」
同じように別れを告げられたのに、圭くんはどうして河崎さんじゃなくて私を探してくれたんだろう。
「わからない? その答えは貴女が持っている、、自分の胸に手を当てて聞いてみて、、」
私が持ってる?
「高瀬さん、彼に会ってあげて、、その答えがわかるかもしれないから」
彼女は両手を合わせてそう言うと、私を仏間がある和室へと案内してくれた。
焼香用の炭に火を付けながら遺影に向かって優しく語りかける。
「圭ちゃん、美幸さん来てくれたよ、良かったね」
仏壇の中には彼の写真が沢山飾られていた。
若い時の写真、赤ちゃんを抱いた写真、奥さんと並んだ写真、、その内の一枚の写真に目が止まった。
あっ、私も持ってた写真だ。
彼女の視線を感じて、慌てて目を逸らした。
「友達同士や親子では、そんな写真撮らないよね、その写真は貴女が撮ったものでしょ?」
「は、はい。家の近くの公園で・・・」
あの時の写真、カメラに向かって優しく微笑んでいる、手には私があげた手作りの教科書入れを持っていた。