38年前に別れた君に伝えたいこと

「私が始まりって事ですか?」

「そう、私より前、彼にとって大好きな人が見せた初めての大粒の涙、それが余りにもショックで自分の幼さ無力さを悔やんで、もう二度とこんな間違いはしないと心に誓ったんじゃないかな、

高瀬さん、私は断言できるわ、

もしあの時、貴女の方から別れを切り出さなければ、彼は死ぬまで貴女を愛し続けた。余程の事がない限り彼の方から別れを告げる事なんてないから。私には分かるの、彼はそういう人、、
私が邪魔さえしなかったら、彼はそこまで貴方に伝えたかったんじゃないかな」

もう駄目だ、、涙が、止まらなくなってしまった。
私は圭くんの事を何もわかっていなかった、、

彼の何を見ていたんだろう、、

上辺だけの優しさに満足して、彼の真の愛情に気づかずにいた、、

幼すぎたのは私の方だ、、

圭くん、、ごめんね、、、でも、

「どうして河崎さんじゃなくて私なんですか?」

同じように別れを告げられたのに、圭くんはどうして河崎さんじゃなくて私を探してくれたんだろう。

「わからない? その答えは貴女が持っている、、自分の胸に手を当てて聞いてみて、、」

私が持ってる?

「高瀬さん、彼に会ってあげて、、その答えがわかるかもしれないから」

彼女は両手を合わせてそう言うと、私を仏間がある和室へと案内してくれた。


焼香用の炭に火を付けながら遺影に向かって優しく語りかける。

「圭ちゃん、美幸さん来てくれたよ、良かったね」

仏壇の中には彼の写真が沢山飾られていた。
若い時の写真、赤ちゃんを抱いた写真、奥さんと並んだ写真、、その内の一枚の写真に目が止まった。

あっ、私も持ってた写真だ。


彼女の視線を感じて、慌てて目を逸らした。

「友達同士や親子では、そんな写真撮らないよね、その写真は貴女が撮ったものでしょ?」

「は、はい。家の近くの公園で・・・」

あの時の写真、カメラに向かって優しく微笑んでいる、手には私があげた手作りの教科書入れを持っていた。
< 68 / 75 >

この作品をシェア

pagetop