ベッドの上であたためて
「おいしい。これなんですか?」
「Golden Cadillac」
「あ、前に別のお店で飲んだことがあったかも…車の名前から来てるんでしたよね」
「そう。さっきGrasshopperも好きだって聞いたので、そのバリエーションのひとつというか、リキュールを一つ入れ替えただけなんです」

へえ、と感嘆しながらグラスを揺らす。

「柳瀬さん、すごいバーテンダーになれそうですね」
「いや、ここは継がないんですよ。俺、学生って言っても院の1年なんです」
「院生なんですか。何の専攻なんですか?」
「法律です。法曹を目指すためのロースクールってところに行ってて」
「法曹って、裁判官とか弁護士さんのことですか?」
「そう。弁護士目指してるんです」

バーテンダーとは全く毛色の違う堅い職業名が出てきて驚いた。
いつも暗がりでバーテンダーの制服を見ているから、青空の下でスーツ姿なんていうのも想像がつかない。
確かに柳瀬さんはチャラチャラした見た目ではないし、知性的な雰囲気はあるけど。

「それって、国家試験があるんですよね」
「そう。勉強しなきゃいけない息子に店投げ出して旅に出るって、とんでもない父親ですよね。でも、この仕事も楽しくて好きなんですけど」

彼は苦笑いを浮かべた。

弁護士か。私には全く縁のない世界だ。
ストレートに大学へ進んでいたのなら今23歳だろう。
設定上のナナと同い年ということだ。
実際の歳だって2つしか変わらないのに、この人は私と違ってちゃんと目標を持って前に進んでいる人なのだ。

私は風に飛ばされそうなくらい、中身が空っぽなのに。

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