もう、オレのものだから〜質実剛健な警察官は、彼女を手放さない〜
「あ、いぬのおまわりさんだー!おはよーごさいます!」
子供達との会話を楽しみながら駅前の交番に差し掛かろうかというところで、みんながピシッ!と可愛らしい敬礼をして元気に挨拶をする。
「ああ、おはよう」
子供達のそれにいつものように敬礼を返してくれる彼の姿を認めて、私の心臓がとくんと跳ねた。
「……葉菜先生も、おはようございます」
「お、おはようございます!」
内心のドキドキは隠して、私も子供達に負けないくらいの挨拶を返す。
彼はこのお散歩コースの時に必ず通る駅前の交番に、昨年の四月から常駐している警察官の犬飼 志貴さんだ。
年齢は私より二つ上の二十六歳だということは、ついこの間知った。
ここを通る時間帯は、大抵彼が交番の前で立番をしていることが多い。
百八十センチは優に越えていそうな長身に、制服の上からでも鍛えられているのが分かるガッチリとした体躯。
加えて制帽から覗く整った顔立ちに並ぶ漆黒の鋭い切れ長の瞳は一見近寄り難くて、そんな彼のことが私は最初、ちょっとだけ苦手だった。
でも子供達に話しかけられた時には必ずしゃがんで目線を合わせてくれたり、交番にやって来る人達に真摯に対応している彼を見ている内に徐々にその苦手意識は薄れていって、ようやく交わす言葉にもぎこちなさがなくなって来たと思っていたのに……。
一ヶ月前のとある出来事がきっかけで、今はまた、前とは違う意味でぎこちなくなってしまった。
まるで桜の蕾が少しずつ膨らんで開花へ向けて変化していくように、私の中での犬飼さんへの気持ちが少しずつ膨らんで、予想外の方向へ変化してしまったせいだ。