もう、オレのものだから〜質実剛健な警察官は、彼女を手放さない〜
「ーー……行かないで……ーー」
頬を濡らす涙。必死に伸ばした手。
その時、その手の先に、あの時感じることのなかった温もりを感じた。
「ーー……葉菜先生……ーー」
その温かさに、何だか痛々しげなその声に乗せられた自分の名前に、深い深い水底に沈んでいた意識がゆっくりと引き上げられて、私はそっと瞼を持ち上げた。
「……い、ぬかい、さん……?」
まだ虚ろな私の瞳には、苦しそうに歪んだ犬飼さんの表情がぼんやりと映って、少し下に視線をズラせば、しっかりと握られた手が目に入る。
手に感じていた温もりは、この人のものだった。
それを理解して、目尻からなぜかまた一筋、涙が流れた。
それを繋いでいない方の手でそっと拭ってくれながら、「……大丈夫か?」と気遣わしげに私の瞳を覗き込む。
私がコクリと頷いたのを確認して、犬飼さんが「飲み物取ってくる」と立ち上がり掛けたから、咄嗟に繋がれていた手に力をこめてしまった。
完全に、無意識だった。
でも目が覚めて、この人が側にいてくれたことにすごくホッとした。夢の中では誰にも側にいてもらえなかったから、多分余計に。
だからもう少し、このままでいて欲しかった。
ところが、犬飼さんの瞳が僅かに見開かれたことによってハッと我に返った私は、
「す、すみません……!」
と慌ててその手を離そうとしたのだけど。
「……いや、構わない。側にいるから、安心していい」
私の心を汲み取ってくれた犬飼さんは、優しく目を細めてそのまままたベッドの横に腰を下ろし、ぎゅっと手を握り直してくれたのだった。