もう、オレのものだから〜質実剛健な警察官は、彼女を手放さない〜
『本当はこの電話で葉菜先生の都合を聞いて、後日の約束を取り付けようと思ってたんですが、もしこの後予定がなかったら今日、どうですか』
私の中では、今日これから送る予定だった他愛のないメッセージのやり取りを何度かした後、こちらから改めてこの前のお礼を口実に食事にでも誘ってみようかと思っていたのに、まさか犬飼さんの方からご飯に誘われてしまうなんて。
あまりのことに、心臓が暴れ過ぎて痛い。
『── 葉菜先生?』
「……あっ、すみませんっ!ご迷惑でなければぜひ……!」
『こちらから誘ってるんだ。迷惑な訳、ないだろう?』
慌てて返事をすれば、優しく鼓膜を揺らすような小さな笑みと、あの日以来お目に掛かれなかった敬語の取れた犬飼さんに胸が高鳴る。
そうして十五分後に駅前で待ち合わせるところまで約束をして電話を終えた私を前に、俄然張り切り出したのは風香で。
「ほら!身だしなみ整えるよ!」と仕事の時は必要最小限のメイクしか施していない私を、風香は自分の手持ちのアイテムであくまでもナチュラルに、でもしっかり女性らしさが出るように手を加えてくれた。
それから、いつも一つにまとめているだけの髪は、下ろして丁寧にブラシで梳かしてくれ、編み込んでハーフアップに。
「うん、可愛さ三割増し!」
その仕上がりに満足したらしい風香が、まるで普段子供たちにするように私の頭をくしゃっと撫でた。
「かたじけない……」
「ははっ、葉菜が武士化してる。……あ、ちょっと乱しちゃった。少し直しまーす!」
「ふふ。お願いしまーす」
── そして二人で園の戸締りをしっかりとした後、「頑張って!」とニヤニヤする風香にもう一度お礼を告げて、犬飼さんとの待ち合わせ場所に向かったのだった。