もう、オレのものだから〜質実剛健な警察官は、彼女を手放さない〜
7、上書きに来るか?

「和食とイタリアンと焼き鳥だったらどれがいい?」


駅前で落ち合い、何か食べたいものはあるかと聞かれた私が迷っていると、さらりと提示してくれた三つの選択肢。

そのうちの一つに、私の目は輝いてしまった。


「あの、焼き鳥をアテにビールが飲みたいです!」


なんて馬鹿正直に色気も何もないリクエストをしてしまえば、「それは気が合うな」と笑ってくれた犬飼さん。

そんな彼が「洒落た店ではないが」と前置きして連れて来てくれたのは、彼の行きつけだという焼き鳥屋さんだった。

カウンター席とテーブル席が四席のこぢんまりとした店内は賑わっていて、食欲をそそる香ばしい匂いが充満している。

錆びれた外観の庶民派中華料理屋を風香と行きつけにしている私としては、こういう雰囲気はとても落ち着くし、大好きだ。

手際良く焼き鳥を焼いている大将と二言、三言親しげに挨拶を交わす犬飼さんを横目に見ながら、案内された席がカウンターで良かったと密かに胸を撫で下ろした。

そんなに広くはない店内なので肩が触れ合いそうな距離ではあるけれど、犬飼さんと向かい合ってサシ飲みだったら、きっと私の心臓が今以上に耐えきれなかっただろう。

「犬飼くんにはお客さん同士のケンカの仲裁に駆けつけてもらったり、いつもいろいろ世話になってるからさ!これサービスね」とお茶目な笑顔で大将が鶏皮の柚子ポン酢をサービスしてくれたり、居合わせた常連さんから声を掛けられているのを見て、改めて彼の人望の厚さ知る。

「なになに彼女〜?」なんておじさまたちから揶揄われて、でも「ご想像にお任せします」と否定はせず、口の端を持ち上げてさらりと(かわ)してくれる彼の優しさが少しくすぐったい。


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