もう、オレのものだから〜質実剛健な警察官は、彼女を手放さない〜
9、もうオレのものだから
「── 葉菜」
温かな春の陽射しと桜の淡いピンクから覗く青空を背負った志貴くんが、そよ風に乗せるように私の名を口ずさむ。
「ん?」
「……ついてる」
そっと伸びてきた手が、私の髪から何かをつまみ取った。
「あ、花びら……」
私の前に差し出されたそれを受け取って、顔が綻ぶ。
そんな私を見て甘やかに微笑んだ彼は、まるで桜の花びらが触れるような軽いキスを一つ落とした。
「え、ちょっ、志貴くん……!」
「誰もいないから問題ない」
喉奥で笑いを噛み殺した彼の甘さをまとった指先が、慌ててきょろきょろと視線を泳がせている私の頬を「可愛い」と悪戯に撫でていき、そのままもう一度唇を攫っていった。
── あれから一か月が経った、四月上旬。
桜も満開のピークは過ぎたけれど、私達はかつて志貴くんが私を拾ってくれたあの思い出の公園に、お弁当を持ってお花見に来ていた。
いつも園児達とお散歩に行く松並公園の方が桜の木も多く植えられていて広いため、この辺りの住人はみんなそちらの方へお花見に行ってしまうから実はここは穴場だったりする。
〝葉菜先生〟から〝葉菜〟、〝犬飼さん〟から〝志貴くん〟。
呼ぶのも呼ばれるのもまだ何となく慣れなくて気恥ずかしいけれど、こうして呼び方を変えた私達は、順調にお付き合いを重ねている。
志貴くんがこんなに甘いなんてお付き合いを始めるまで全く知らなかったけれど、これが愛されているということなんだなぁと全身で感じさせてもらう毎日。
あの吐く息も凍りそうな冬の日。
この公園で志貴くんに拾ってもらえたことは、本当に奇跡みたいなことだったと思う。
二人で他愛もない話をしながら仲良くお弁当をつついていると、桜の写真を撮った後レジャーシートの上に置きっぱなしになっていた私のスマホが、ブー、ブーと規則的に振動した。
視線を向けるとその画面は、登録していない番号からの着信を告げている。
「……出ないのか?」
「うん、大丈夫。登録してない番号からは出ないようにしてて」
「…ああ。それがいい。今は詐欺電話なんかも多いし、用があればまた掛かってくるか、留守電に残していくだろうしな」
「ね。……あ、おにぎりもよかったらどうぞ!中身がわからないようになってるから、何が当たるかはお楽しみ、だよ」
まだ震えているそれをそっとバッグにしまって言う。