もう、オレのものだから〜質実剛健な警察官は、彼女を手放さない〜
2、オレが拾っていく
一ヶ月前。
どこまでも深い漆黒に浮かぶ三日月がとても綺麗だった夜、ピンと張り詰めた冬の寒さに身体を震わせながら、私は自宅近くにある猫の額ほどの小さな公園のベンチに座っていた。
剥き出しのかじかんだ手にハァー、と白い息を吹きかけた時、彩られた爪先が目に入って思わず自嘲気味の笑みが溢れる。
普段は保育士という仕事柄、爪はいつも綺麗に切り揃えているしネイルをすることもない。
でも今日は一年半付き合っている彼との久しぶりのデートだからと少しでも可愛くいたくて、普段は結んでいることの多いセミロングの髪は下ろして巻いて、こうして爪にも慣れないネイルを施していた。
だけどそれも、今となってはすっかり無駄になってしまった。
淡い街灯と頼りない月明かりに照らされたグレイッシュなピンクが虚しく艶めき、今度はやるせないため息が一つ、冬の空気に溶けて消えた。
三つ年上の彼、光司くんとは、友達に半ば強引に連れて行かれた合コンで出会った。
そういう場が苦手な私にも大人の余裕で優しく接してくれた彼に、恋愛経験の乏しい私が惹かれるのにそう時間は掛からなかった。
連絡先を交換し、三回目のデートで告白されて私達のお付き合いは始まったのだけど、どうやら私は二股をかけられていたらしい。今日のデートでそのもう一人の彼女とうっかり鉢合わせしてしまい、私はあっさり捨てられたのだ。
百五十八センチの平均的な身長に、くっきり二重だけが特徴の至って平凡な私とは全く違う、すらっとしていて大人っぽい、綺麗な人だった。