もう、オレのものだから〜質実剛健な警察官は、彼女を手放さない〜
「一人で平気か?」
「うん、大丈夫。だから志貴くんはお仕事に戻って?」
「……本当に?」
玄関の上がり框(かまち)の上にいる私と下にいる志貴くんだけど、その身長差が埋まることはない。
ドアを閉めた玄関先で眉間に皺を寄せた彼が私の目線に合わせて身を屈め、じっと私を見つめる。
まるで瞳から、心の内を見透かそうとするように。
……前科二犯の罪は、志貴くんの中では相当に重かったようだ。
その節は本当にごめんなさい、と心の中で謝る。
彼にはどんな嘘も誤魔化しも強がりも、全く通用しないことはもうしっかりと学んだ。
心配をかけないようにと思って言ったそれらが、逆に心配をかけてしまう要因になるのだということも。
志貴くんは、私の心の揺らぎを私以上に敏感に感じ取ってくれる人だから。
「うん。だから安心して行ってきてください。ね?いぬのおまわりさん?」
私が戯けてそう言えば、ようやく表情を緩めた志貴くんはふ、と空気を遊ばせるような小さな笑みをひとつこぼした。
「……ああ、嘘じゃないみたいだな。分かった、行ってくる」
……でもその前に。そう付け加えた彼は私の後頭部に手を差し込んで、呼吸を奪うようなキスを仕掛けてきた。
── 警察官の立場を弁えていたはずの彼は、最後の最後であっさりとそれを反故にした。
不意打ちのそれに、私の顔の赤さはまた私史上最高値を記録しそうになる。
「── じゃあいってきます」
だけど、大人の色気を存分に纏った彼が最後にもう一度ちゅ、と可愛らしい音を響かせて妖艶な笑みひとつを残して行ってしまうから、ついに文句のひとつもいってらっしゃいも頑張っても、そのどれも全部言いそびれてしまった。
「……っ、もう……!煽ってるのはどっちなの……」
ヘナヘナと玄関にしゃがみ込む私の呟きは誰に拾われることもなく、まだ彼の香りと温もりが残る玄関の片隅に、落ちて溶けた。